横浜地方裁判所 昭和63年(わ)375号 判決 1997年2月27日
被告人会社
名称
有限会社波木商事
(旧商号波木産業有限会社)
本店の所在地
東京都港区赤坂三丁目一二番五号 波木ビル四階
代表者の氏名
波木堯雄こと朴有福
代表者の住所
東京都港区赤坂三丁目一二番五号 波木ビル四F
被告人会社
名称
伍代商事株式会社
本店の所在地
横浜市中区長者町四丁目一〇番地一 パルム長者町二〇二号
代表者の氏名
橋本武命こと李邦宏
代表者の住所
横浜市南区大岡二丁目二三番一八号
被告人
氏名
波木堯雄こと朴有福
年齢
一九四三年二月一五日生
国籍
大韓民国
住所
横浜市中区山手町二二一番地
職業
会社役員
検察官
高橋信行
弁護人
平岩敬一、今井勝、山本英二
主文
一 被告人有限会社波木商事を罰金七〇〇〇万円に処する。
二 被告人伍代商事株式会社を罰金二五〇〇万円に処する。
三1 被告人朴有福を懲役二年に処する。
2 被告人朴有福に対し、この裁判確定の日から五年間刑の執行を猶予する。
四 訴訟費用は各被告人会社及び被告人朴有福に連帯して負担させる。
理由
(犯罪事実)
第一 被告人有限会社波木商事(平成元年七月四日以前の商号は波木産業有限会社)は、東京都港区赤坂三丁目一二番五号波木ビル四階(昭和六〇年六月一〇日以前は東京都港区赤坂二丁目一三番二一号関根ビル二階)に本店を置き、金銭の貸付等を目的としていたものであり、被告人朴有福は、被告人波木商事の代表取締役等として同社の業務全般を統括していたものである。
被告人朴は、被告人波木商事の業務に関し、法人税を免れようと企て、簿外で貸付を実行し、その貸付金の利息として受取った手形・小切手を架空名義の普通預金口座で取り立てるなどの不正の方法により所得を秘匿した。そして、昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日までの事業年度における被告人波木商事の実際の所得金額が五億八一九〇万九八六九円であったにもかかわらず、同社の法人税の納付期限である昭和五九年八月三一日までに、所轄の麻布税務署長に対して法人税確定申告書を提出しないで右納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人波木商事の右事業年度における法人税額二億五〇九八万二五〇〇円を免れた。
第二 被告人伍代商事株式会社(昭和五八年九月一三日以前の商号は堯雄商事株式会社)は、横浜市中区長者町四丁目一〇番地一パルム長者町二〇二号(昭和五九年一〇月一一日以前は同区不老町一丁目六番地四三和ビル三階)に本店を置き、金銭の貸付等を目的としていたものであり、被告人朴は、被告人伍代商事の実質的経営者として同社の業務全般を統括していたものである。
被告人朴は、被告人伍代商事の業務に関し、法人税を免れようと企て、簿外で貸付を実行し、その貸付金の利息として受取った手形・小切手を架空名義の普通預金口座で取り立てるなどの不正の方法により所得を秘匿した。そして、
一 昭和五七年一一月一一日から昭和五八年九月三〇日までの事業年度における被告人伍代商事の実際の所得金額が一億二〇九六万〇三四六円であったにもかかわらず、同社の法人税の納付期限である昭和五八年一一月三〇日までに、所轄の横浜中税務署長に対して法人税確定申告書を提出しないで右納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人伍代商事の右事業年度における法人税額四九九二万三二〇〇円を免れた。
二 昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの事業年度における被告人伍代商事の実際の所得金額が一億二六六三万六二五九円であったにもかかわらず、同社の法人税の納付期限である昭和五九年一一月三〇日までに、前記横浜中税務署長に対して法人税確定申告書を提出しないで右納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人伍代商事の右事業年度における法人税額五三八四万九三〇〇円を免れた。
(証拠)
※ 以下、かっこ内の甲、乙、弁の各番号は証拠等関係カード中検察官、弁護人の請求番号である。
全部の事実について
一 被告人(兼被告人波木商事代表者)朴有福の公判供述
一 合意書面(甲一九九、弁一)
一 第一回公判調書中の被告人朴有福の供述部分
第一の事実について
一 被告人朴有福の検察官調書(乙四ないし一九)
一 安純誠(甲二)、李奉樹(甲三、四)の検察官調書
一 登記簿謄本(乙四一)、閉鎖登記簿謄本(乙三一、四〇)、閉鎖登記用紙の謄本(乙三八、三九)
一 調査書(甲九ないし三五、九五ないし一六九)
第二の事実全部について
一 被告人伍代商事代表者李邦宏の公判供述
一 被告人朴有福の検察官調書(乙二〇ないし二二、二四、二五、二七、二八)
一 李邦宏の検察官調書(甲三七、三九ないし四四、四六、八二、八三)
一 李順子の検察官調書(甲四七)
一 履歴事項全部証明書(乙四四)
一 調査書(甲五八ないし七九)
(法令の適用)
※ 刑法は、平成七年法律九一号附則二条一項本文により同法による改正前のもの(ただし、罰金の下限については、右平成七年改正前の刑法六条により、平成三年法律三一号による改正前のものと同改正後のそれとを比較し、軽い同改正前の刑法一五条、罰金等臨時措置法二条一項による。)
一 被告人波木商事
罰条 法人税法一六四条一項、一五九条一項
罰金の上限額 法人税法一五九条二項
二 被告人伍代商事
罰条 それぞれ法人税法一六四条一項、一五九条一項
罰金の上限額 法人税法一五九条二項
併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項
三 被告人朴
罰条 それぞれ法人税法一五九条一項
刑種の選択 それぞれ懲役刑
併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の刑に加重)
刑の執行猶予 刑法二五条一項
四 訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条(連帯負担)
(量刑の理由)
一 被告人朴は、自分が経営し、金融業を営んでいた被告人会社二社の営業収益に関し、簿外貸付や架空名義口座による利息の取り立てなどの巧妙な方法により所得を秘匿し、全く確定申告をしないまま法人税を脱税したものであり、秘匿所得額は合計八億円余り、その脱税額も合計三億五〇〇〇万円余りと極めて多額に上っており、犯情は悪質である。
いうまでもなく、適正公平な税負担は、社会資本の整備、福祉の充実など国民の幸福増進をその目的とする民主国家にとって不可欠の基盤であって、不正な方法により脱税を図る行為は、社会共通の公益を侵害するものとして、強い非難に値するものである。
被告人朴は、本件当時には申告・納税を行うことは念頭になかった旨述べるなど、公民としての健全な納税意識が全く欠如していたことがうかがわれ、前記犯情と合わせ、その刑責は極めて重大であるといわなければならない。
二 一方、被告人波木商事はその後脱税にかかる法人税の納付を行い、既に各被告人会社の本税及び加算税額に相当する金額を納付済であること、被告人朴は反省の態度を示し、本件発覚後は法定の申告・納税を履行しているとうかがわれること、既に起訴後相当期間を経過し、それなりに社会的制裁を受けたと認められることなど被告人に有利な事情も認められる。
三 そこで、これらの事情を総合考慮し、被告人朴に対しては、今回に限りその刑の執行を猶予するとともに、各被告人会社に対しては、それぞれ相当額の罰金刑を科するのを相当と判断した。
(求刑)
被告人波木商事・罰金八〇〇〇万円 被告人伍代商事・罰金三〇〇〇万円 被告人朴・懲役二年
(裁判長裁判官 中西武夫 裁判官 曳野久男 裁判官 白川純子)